第27章 白無垢よりもウェディングドレスよりもタキシード!?
かぽんとししおどしの音が鳴り響く。
落ち着いたいかにもな料亭は、自然と私の背筋をピンと伸ばした。
洗礼された空間というべきだろうか、なんというか一言でいうと落ちつかない。
遅刻するのは失礼だと思い、開始時間30分前に到着するやいなやケモ耳モフモフの店の従業員であろう数名に連れられて一番豪華絢爛な『トト姫の間』に案内された。
聴くところによると、この料亭の全員がよわい一族が使役しているんだとかなんとかだそう。
予想してはいたけど、さすがはヴァンパイア三大貴族の1つだ。
もうなんつーか、スケールっていうの?
違いすぎて脱帽だ。
「なんていうか、いつも賑やかな事が多いからこう静かだと落ち着かないな」
なんてポツリとこぼすも、自分の慣れない低い声が静かに響くのがなんとも違和感だ。
そっと畳を撫でる。
やはり日本人だからか、畳の匂いは落ち着く。
不思議魔法の家こと松野一族のお屋敷も洋館テイストで素敵だが、こういう和風な感じもまた素敵だ。
「そういえば、松の間そろそろ畳の手入れをしないとな」
松の間というのは、お屋敷の中の和室だ。
私が初めて松坊ちゃん達とご対面し、ツッコミをいれた部屋。
一番初めに連れ去られて来られた時の事を思い出す、あの日はおそ松のクソバカ野郎に血を吸われ死にかけ人生の中で一番最悪な日だったっけ。
もう随分と前の事に思う。
今思い出してもろくな思い出じゃない。
あの時はまさか自分がこんな格好して、女の人とお見合いするだなんて考えてもみなかった。
いや、生まれてこのかたこんな意味不明なシュチュエーションに巻き込まれるなんざなかなかの喜劇だ。
「いったい私は何処に向かってるんだ」
ふわふわの自分の尻尾を揺らしながら、はぁっとため息をつく。
ししおどしの音が虚しく響いて、なんだかもう笑い出してしまいたい。
あれだ、これはそうだ。
やけくそというやつだ。