第26章 揺れる心〜愛の逃避行、無垢なる笑顔と恋のlabyrinth〜
「知りたいー?」
いきなり目の前にバッと現れるおそ松兄さん。
空中で逆さまになって現れるもんだから、不覚にも少しびっくりした。
「...なにを?」
ドクドクいってる心臓を片手でおさえると、体制を崩したのが嫌だったのかぴょんっとエスパーニャンコが床へとダイブする。
「カラ松のい、ば、しょ」
「別にクソ松が何処に行こうと知ったこっちゃない」
そういって、おそ松兄さんの横を通ろうとした。
「鈴音も一緒だけどー?」
にひっと笑うこの人は悪魔なんじゃないかなって時々思うんだけど、よく考えたらヴァンパイアだし、なんだったら悪魔よりもっとタチが悪い。
「...教えて」
「えー?タダで?」
他の兄弟達と遊ぶのはいいけど、クソ松と遊ばれるのは癪に障る。
ただたんに、クソ松が嫌なだけ、ただそれだけ...。
「五千円でどうって言いたいとこだけど、千円でいいよ」
物凄くいやらしい下卑た笑みを浮かべて、弟からお小遣いをせしめようとするこの長男を誰が長男って呼べる?
「やっぱりクズだね、ひひっ」
「あらいやん、褒め言葉ー?」
懐から紫色の財布を取り出して、ちょっとよれてしまってる野口さんを探す。
「これでいい?」
野口さんを渡したら、「やったラッキー」と野口さんにキスをするおそ松兄さん。
「あんた本当にクズだわ」
「そーよ?クズよ?クズついでにこれあげる」
渡されたメモ、あんまり珍妙な言葉だったから思わず読み上げてみる。
「シュヴァルツヴァルダー・キルシュトルテ?別名称ガトー・ド・ホレノワール?何これ?」
「お前よくスラスラ読めんね?俺、シュビルツのとこでギブしたのに」
こんな訳わかんない単語聞いたことない、よってこれは日本語じゃないだろうなくらいしかわかんないんだけど。
「...シュビルツじゃなくてシュヴァルツ」
「どっちでもいーの!わかればいーの!シュビルツでもビルゲイツでもどっちでもいーの!細かいことはいーの!」
「いや、わかんないから、皆目検討つかないから」
真顔でツッコミをいれつつ、とりあえず財布の中にメモを放り込む。