第25章 戦士の安らげる場所〜愛の逃避行、カラ松onrabu編〜
「カラちゃん!カニさんだよ!」
「蟹...?」
レディの声に目の前の水槽を見れば、白い石の敷き詰められている空間で長々とした脚を優雅に動かすヤツがいた。
蟹ならさっきサワガニを見たばかりなんだがな?
そう思いながらレディの指さす方を見つめた。
「レディ、こいつは...」
タラバガニだ。
皆が大好きタラバガニだ。
いや、中には苦手な人もいるだろうが...。
その紅と白で彩られた紅白のようなめでたい色の身を奥の奥までほじくり、沢山ためてから味わう人もいるだろう。
はたまた、1本また1本と丁寧に食べる人もいるだろう。
真紅の鎧を剥くのに手間取るなど愚の骨頂だと高らかに笑いながら、1番カニに踊らされる者もいるだろう。
ふっ、俺か?
俺は...
せっかく丹精こめて取り出した美しい蟹肉が、知らぬ間に消えているタイプさ。
よく思い出して見れば、俺の蟹肉が消えてると同時におそ松が口をもきゅもきゅしているのだが...
まさか、ブラザーが俺の蟹肉を!?
いや、そんな事は!
ブラザーを疑うだなんて!なんて俺は罪深いんだ!
「これって食べたら美味しいのかな?」
「なっ!レディ!食べちゃダメだ!」
そんなふうに言ってはみるものの、俺の口もよだれが溢れ出る。
くっ、蟹の魅力にはなす術はないのか!
「あっ!あっちもカニさんだよ!」
「ジーザス!?今度は毛ガニだとぉ!?」
刺々しい鎧を身にまといつつも、その身はまさに至高の産物といっても過言ではない!
それにしても、何故水族館にいる蟹たちはこんなにも美味しそうに見えるんだろうか?
大きい上に身が詰まっていそうだ。
レディが食べたら美味しいのかなという理由もわからなくもない。
どちらにしたって蟹は素晴らしい食べ物であると同時に、人々に無口になる轡を与えし罪なる食べ物だ。
家族団らんなど皆無、ただ蟹を奪いそして喰らう。
まさにそう!家族団らんの場を戦場へと変えてしまう!罪なる蟹!
いや、だが何故か俺達の中だと喧嘩にはならないんだよな。坂田家は戦場になるというのに...。
ふっ...。
うちは家、よそはよそというわけか...。