第23章 3時のおやつは愛をこめて
手伝えたらなぁ...
なんて思いながら、重いお菓子の本と鈴音ちゃんを交互に見てみるけど
重たい本のせいか、僕の足は動かない。
はぁっとため息をつきながら、同じページを何度も何度も見返しては知識を確実なものにしていく。
そして知識が磨かれている間に、ふわりとバターの香ばしい香りが僕の鼻腔を通り抜けていく。
「おっ、いい感じ!」
楽しそうに微笑む姿が遠くに見える。
そんな嬉しそうな顔を見てたら、こっちまで緩んでくる頬。
これじゃ本当にストーカーか何かみたいじゃんなんて、自分にツッコミを入れながら、はぁっとため息をバターの匂いに溶かす。
話したい
もっと近くでその笑顔をみたい
君の横で笑いたい
ぎゅうっと力のこもる手に本のページがシワを作る。
なんだって僕はこんなに意気地がないんだろう。
すぐそこにいるのに、手が届かないなんて
もんもんとする思考。
そんなモヤモヤした気持ちを吹き飛ばすのは
「次は、カスタードつくんないと」
君の楽しそうな声。
にゃーーん!
「アル、おやつはちょっと待ってね」
その場にしゃがみこんで優しい笑顔を浮べながら、アルに語りかける。
「おやつは笹身がいい...?」
そんな問いかけに、小首を傾げて鳴くアルにじゃあ鰹節?なんて楽しそうに笑う。
猫でさえ鈴音ちゃんとおしゃべりしてるのに、本当情けない。
その姿は、憧れの女の子に話しかけられない中学生男子...って、まんまじゃん!
ああぁと身悶えしていたら、いつの間にかカスタードクリームを作り始める鈴音ちゃん。
出遅れたなぁなんて思っていたら、しゅわわっと鍋から音がする。
鍋が沸騰する音だ。
さっきまで舐めまわすようにレシピを見ていたもんだから、沸騰させてはいけないというのはよく分かっていた。
「沸騰させちゃダメだよ!」
思わず飛び出してそう言った。
それが僕がお菓子作りをするようになった始まり。