第23章 3時のおやつは愛をこめて
初めてお菓子を作った日。
それは僕が鈴音ちゃんに何もしてあげられなかった日だった。
沢山のメイドに詰め寄られる中、光を失わないあの綺麗な瞳を今でも鮮明に思い出す。
僕は何も出来なかった。
君を守ることも、傷を治してあげることも
そんなどうしようもない僕を、君は守ってくれた。
あの時傷を治していたら、僕の立場が危うくなると、なにより傷つくと思ったんだね。
君の優しさが僕に染みて、僕はその優しさに甘えたんだ。
自分が今まで負ってきた心の傷は、僕の深くに入りこんで血を流し続けてきた。深い傷口をふさぐような、優しさが胸に染みた。
だけど...
僕は弱いんだと、思った。
そして、君の力になれないんだと思い知った。
あの時から、そんなふうに思ってしまうこと事態が、もうどうしようもなく強く惹かれていたんだと今にしてみれば思う。
何とか話せないものかと、こっそり後をつければ、それはさながらストーカーみたいで苦笑いしか出てこない。
途中何度かお客様の対応で、食べられそうになるのを見ていた。
よしっ!ここで助けようって思ったら颯爽と現れる黒い影。
「アル?ふふっ、ありがとう」
「にゃーん!」
そんな願いは虚しく、カッコイイ登場を猫にかっさらわれるカッコ悪い僕。
それでもどうしても、話したくてこそりこそりとつけてたどり着いた先は、キッチン。
時計をちらりと見れば、あぁ僕らのおやつの時間だと分かった。
いつも松代もとい、母さんが僕らのお菓子を作ってくれる。冷蔵庫の前で、立ち尽くしながら白い紙を見つめる鈴音ちゃん。母さんの癖で冷蔵庫にいつもお菓子のレシピを貼るんだ。
「ミルフィーユか...」
ふむっと考えながら、レシピにじっと目を通す姿を見つめる。
どうやら今日のおやつはミルフィーユらしい
「骨が折れそうだな...」
またまたポツリと聞こえた言葉、それを聞いた瞬間だった。
何を思ったのか、僕はパチリと指を鳴らす。