第23章 3時のおやつは愛をこめて
キラキラした瞳が僕を見つめる。
あぁ、もうこれ絶対に言うしかないじゃんか。
「わかった、教えてあげるけど誰にも内緒って約束できる?」
カシャカシャという音が鳴り響く中で、僕はその音に隠すように小さな声でつぶやく。
「うん!約束!ほら、指切りげんまん、ね?」
ボウルを持っていた手を離して、小さな小指を差し出す鈴音ちゃん。
生クリームを、泡立てるのを中断して可愛い小指に指を絡める。
「「指切りげんまん、嘘ついたら...」」
2人で言いかけた瞬間に、ピタリと言葉が止まる。
さて、嘘をついた場合はどうしよう?
「嘘ついたら、どうしようか?」
その問いに、ニッコリと笑う鈴音ちゃん。
「私、嘘つかないから大丈夫だよ!」
なんて、誇らしげに言うものだから困ってしまう。
大人の君は結構嘘つきだ。しかもその殆どが、他人に心配をかけさせない為の優しい嘘。
大人の鈴音ちゃんが聴いたら、どんな顔をするんだろう?
「じゃあ、嘘をついたら僕の言う事を一つ聞くこと」
「うん!いいよ!約束ね!」
「「約束、約束嘘つかなーい!」」
絡まる小指を離し、ニコッと笑い合って、また生クリームを泡立てる手とそれを手伝う小さな手。
真剣にボウルを持つ顔を見ながら、僕はゆっくりと話し出す。
「実はね、お菓子を作り始めたのも勉強しだしたのも最近の事なんだ」
ここ最近の記憶のページをめくれば、僕が必死にお菓子の本を読み漁っていた記憶が簡単にでてくる。
「最近なの??」
幼い真剣な顔に意外そうな表情が混ざる。
泡立つクリームに白い円を何重も描きながら、ふふっと笑う。
「そう、本当に最近なんだよ。だから僕が1人でお菓子を作るのはこれが初めて」
「1人じゃないよ!私一緒にいるもん!」
その一言、また頬を緩ませればフワフワの生クリームがボウルの中で角を立てる。
「そうだね、初めてお菓子を作った時も...」
言いかけた瞬間に、口を閉じる。
いざ言葉にするとなると、結構恥ずかしい。