第23章 3時のおやつは愛をこめて
カシャカシャ
アルミ製のボウルと泡立て器が鳴り響く。
小刻みにリズムを刻むように、卵白を泡立てていく。
ボウルを少し斜めに傾けて、空気をふんわりと含ませるように混ぜる。
雲を作っているみたいだと鈴音ちゃんは笑う。
メレンゲを作るのは難しいし、大変だけど今は楽しくて仕方ない。
「うん、じゃあ少し砂糖いれて?」
「はーい!」
薄い緑色のエプロンを着た、鈴音ちゃんがニッコリと笑う。
サラサラとボウルの中に入っていく砂糖が、キラキラ光る。
「ストップ」
「じゃあ次はチョロちゃんの番!」
「うん、頑張るよ」
2人並んで、お揃いのエプロンをつけて雲を作っていく。僕の気持ちが連動してか、さっき分離して失敗してたのが、今じゃつやつやのメレンゲになっていた。
カシャカシャとなるリズムが、虚しかったはずなのに今はこんなにも、心が踊る。
「よし、メレンゲはできたよ」
つやつやで角の立つメレンゲを見せれば、キラキラと輝く瞳。
「すごい!やっぱりチョロちゃんは魔法使いだね!」
ふふっと笑うその笑顔が、愛おしい。
熱くて身を焦がすのも、心がこんなに温まるのも全部全部鈴音ちゃんが初めてだ。
思えば僕の初めては、全部鈴音ちゃんにあげちゃってるな...
でも
後悔なんてこれっぽっちもない
「鈴音ちゃんが、手伝ってくれたからだよ?だからうまく出来た、ありがとうね」
「うん!」
愛しい彼女は、小さくても相変わらず愛しい。
ふふっと笑いながら、作っておいた生地に雲を混ぜていく。
泡を潰さないようにそっとそっと...
僕の想いが、君にとって重くならないように慎重に
柔らかい泡の中に、僕の想いを隠して詰め込む
気づかれないように、気づかれないように
鈴音ちゃんのキラキラした顔を横目で見ながら
ありったけの心をこめて
そっと隠した...