第23章 3時のおやつは愛をこめて
カシャカシャと1人キッチンで音を鳴らす。
アルミ製のボウルの中で、卵の白身がふあふあになっていく。
泡立て器もアルミ製のせいで、カシャカシャという音がよく響くのがいつもなら心地よいのに、今は虚しい。
ただ、何も考えず、ずっとずっと掻き混ぜるボウルの中身。
パラリと重い本のページをめくる音とともに、手を止める。
「あっ、砂糖...」
入れ忘れた甘い粉、しまったと思って慌てて計り始めた。お菓子を作るのに砂糖を計り忘れるなんて、マヌケにも程がある。
「えーと、30gかな...あっ...」
とさーっと音を立てるみたいに、砂糖が大量に袋から零れてしまう。面倒だと思って袋ごと傾けてしまったミスだ。
ガラスの器からあふれる白い粉にため息を一つ。
入れすぎてしまった砂糖をスプーンですくって、袋に戻す。
想いが溢れすぎて、それを収めるには小さすぎる透明なガラスの器。
僕と今の鈴音ちゃんに似ている。
甘い甘い想いが、募ってあふれて受け止めきれなくなる。
なんて、そんなことを考えながら。
「あぁ、やっぱりダメだ」
1杯2杯と砂糖を袋に戻すけど、全部が元に戻るわけじゃない。すくいきれない砂糖を、ゴミ箱へ払い入れる。
手の温度のせいで砂糖が溶けだしベトベトになる。
甘い考えを払ってゴミ箱に捨てようと決心したら、逆にこんがらがって、自分に被害がおよぶ。
水で洗い流してやっとベタつきは取れたけど、僕の心はそう簡単には洗い流せない。
そんなふうに砂糖と悪戦苦闘していたら、忘れていたボウルの中身。
「あっ、しまった...」
思い出し、ボウルを覗き込めば哀れや哀れ
ふあふあだった白い卵白が、塊と水に分離して見る影もない。
途中で泡立てるのをやめたせいだろう、完全なる失敗というやつだ。
「どうして僕ってこうなんだろう...」
がっくりと肩を落しながら、ボウルを見つめる。
こうなってしまっては、メレンゲの意味をなさない。
流し台にメレンゲだったものを流し、レバーを上にあげる。ざあっと水がでてきて、メレンゲの失敗作を流した。