第22章 ラストダンスは猫の手をかりて
「ねぇ?一松って呼んで...あの夜みたいに...」
綺麗な綺麗な瞳が、私を射抜く。
一松くんの瞳がバイオレット色になった気がした。
無機質な肌にさす月明かりが、彼という存在を美しく照らせば私の頬を染める。
その言葉に、その低い声に、心臓が高鳴る。
目を見開いて、彼をみればそこには頬が赤くなって私を真っ直ぐ見つめる可愛い人。
一瞬の瞬きの間に思いめぐらすのは、初めての夜のことだ。
貫かれた痛みも
首筋に感じた痛みも
彼の気持ちよさそうで泣きそうな顔も
刹那の空の色を宿した瞳も
昨日のことのように思い出せる。
あの時の私は、彼を満たせていたんだろうか?
じっと見つめ合う瞳が、熱を連れてくる。
「...一松」
彼の名前を呼ぶ。その一音にありったけの優しさを込めた。
一松くんが私を呼ぶ時は、寂しい時のはずだけど、私はどうなんだろう。
寂しいから呼ぶ?
違う
それはきっと...
その答えにたどり着きそうになった所で、やって来る痛み。
一松くんに心配をかけまいと、必死で笑って見せた。
「痛い?」
それなのにそんな嘘を意図も簡単に見破ってしまう。
こくんと正直に頷き、利き手で頭を押さえる。
次の瞬間、利き手をグイッと引き寄せられる。
「言ったでしょ、忘れてって...」
完全にバイオレット色になってしまった一松くんの瞳が、鋭く私を見下げた。
ぴちゃりとやらしい水音とともに、指先に柔らかくて暖かい感触
赤い一松くんの舌が、私の指先を舐めていく。
小指、薬指、中指と一松くんが舌を這わせるたびに、彼の唾液が月明かりでキラキラと輝く。
指を舐められているだけなのに、何故か身体が熱くビクビクと震える。声を押し殺せば、焦らすようにゆっくりと舐められる。
中指に差し掛かったところで、ピタリと動きが止まりズキリと痛みが生じた。
ギリッと音が出そうなほど、一松くんのギザギザの歯が私の人差し指にくい込む。
「つぅ...一松...くん...?」
困惑したような声を出しても、噛む力は衰えることなく、深く肉を抉る。
じわりと何かが滲んでくる、それが一松くんの唇を少し汚した。