第22章 ラストダンスは猫の手をかりて
「んっ、んんっやぁ...」
甘い声を夜風が掻き消す。
舌を絡めれば絡めるほど、口内からあふれだす鈴音の唾液が、首筋を伝っていく
「はっぁ...甘い...」
唇を話してつぶやく言葉は、鈴音の味。顎を持ち上げて、ゆっくりと上を向かせれば、トロンとした瞳で困った顔をする姿が悩ましい。
「あっ、甘く...ない...よ?」
月明かりに照らされて、透明な唾液が鈴音の首筋でキラキラと反射される。
ごくんと唾を飲み込む。
チョーカーだとか、ネックレスだとか、そんな装飾品で鈴音の首を飾り立てておけばよかった。
もう1度唇を優しくついばむように、キスを落とす。
んっと高く、甘い声が耳を通り抜ける。
光よりも速く、声が脳内に響けば本能という言葉に逆らえるはずもない。
本能のおもむくまま、首筋へ舌を這わす。
冷たい夜風で少し冷えた首筋が、オレの舌の熱を少し奪う。
猫舌のオレにとって、丁度いい温度。
熱すぎてしまったら、火傷をしてしまう。
もうすでに心は焼けただれて、手遅れだ。
「一...松...く...ん、くすぐった...い」
ぎゅうっと両腕で頭を抱きかかえられる。
もうこれ、誘ってる以外のなにものでもないよね。
「...やられた事をやり返してるだけだよ、オレ」
耳元で低く囁けば、身体がビクリと跳ね上がる。
「...一...松く...」
潤んだ瞳が、可愛すぎてもうどうしようと止められない。
「ねぇ?一松って呼んで...あの夜みたいに...」
オレの言葉に大きく目を開いて、顔を赤く染める。
気づいた時には、ドクドクとうるさいくらい胸がなる。
あぁ、オレ、今とんでもない事を願ってしまったのかもしれない。
「...一松」
柔らかい声がオレの名前を呼ぶ。
とても柔らかい笑みを顔に宿して、オレの名前を呼ぶ。
名前を呼ばれただけなのに、身体中を巡る血が沸騰したみたいだ。
熱い、熱くて、熱くて
胸がうるさくて
仕返ししてやろうと思ったのに、これじゃミイラ取りがミイラだ。