第22章 ラストダンスは猫の手をかりて
「一松くんは、いつもズルいね?」
そう言って笑ってみせたら、撫でられていた頬から手が離れて、にたりと笑う猫の目は少し悲しげだ。
そんな瞳と見つめあって数秒、やってくるのは羞恥心。そっと唇を撫でて、熱が集まる顔はきっと赤い。
「そんなによかった?」
その言葉に、先ほどの恥ずかしい気持ちを巡らせると、いけない気持ちが現れる。本来負けず嫌いの私の心に火がつく。
「一松くんがよかったんでしょ?」
目を見開いたかとおもうと、みるみる赤くなっていく頬、それを隠そうとしてうつ向く彼は可愛いすぎた。
イジめてやりたいなんて、そんなイタズラ心がムクムクと出てくる。こんな私は子どもなんだろうか?
「一松くん、顔みせて?」
恥ずかしさのあまりうつ向いてしまっているであろう一松くんにとって、意地悪なことを言った。
冬の冷たい空気の中で、近づいた耳元から微かに熱を感じる。
意地悪な囁きに、おそるおそる上をむく一松くんと目が合う。
頬を赤く染めて、少し潤んだ瞳はまるでどうしてそんなことを言うのという抗議の瞳。
なんて可愛いひとなんだろう...
思わずニヤついてしまう。
「なに、その不気味な笑顔」
「ごめん、一松くんが...あんまり可愛いからつい」
その言葉に、さらに顔を赤くする。
可愛いなんて言われたって嬉しくないというその言葉さえ、今の私にしてみればただの可愛い抗議でしかない。
「...心配したのに」
ふいっと違うほうを向く、どうやらイジメすぎてしまったらしい。
「ごめん、謝るから」
「謝るだけ?」
突然冷たい手が私の頬を包む。
あまりの冷たさにひゃっとマヌケな声を一つ。
「ねぇ?謝るだけ?」
さっきまで、意地悪されていた顔とは全然違う。
ニヤリと笑う顔に可愛さは欠けらも無い。
「ほ、他にどうしろと?」
しどろもどろになりながら口を開けば、さらに口角が上がる。
空に浮かぶ三日月と同じだなんて、呑気に考えている場合ではない。
「知ってる?眼には眼で歯には歯でって」
いきなりそんなことを言われて、目を丸くする。
たしかハンムラビ法典の一節だったような気がするけど。
「確か、自分がやられたことをそのままやり返してやれって意味じゃなかったっけ?」
そう答えた瞬間、一松くんはニヤリと笑った。