第22章 ラストダンスは猫の手をかりて
つうっと銀糸がオレたちの唇を繋ぎ、月明かりに消えた。ハアハアと荒い息づかいが闇に溶ければ、記憶もまたその闇に吸い込まれる。
「...苦しいよ、一松くん」
目尻に涙をためてそういった鈴音が、とても儚く見えた。
「もう、痛くない?」
そっと頭を撫でると、こくんと頷く。
記憶を封じるために、キスをする。
大切な思い出を消すためにキスをする。
その行為は気持ちと体が別々で、いっそ本当にバラバラになってしまったほうが楽なんじゃないかとさえ思ってしまう。
愚かという言葉が今のオレにピッタリだ。
望まない答えへ必死に辿り着かせる。
自分の気持ちをどこかへ置いてこなければ、鈴音を救えない。
「そんな悲しそうな顔しないで」
降ってくる言葉が胸に突き刺さる。
必死に隠す表情を意図も簡単に見破ってしまう。
切ないピアノの音が、今の気持ちに合いすぎて、泣けてくる。
オレは鈴音を悲しませることしかできないの?
優しく鈴音の頬を撫でて、いう。
「...笑って...鈴音」
それくらい望んでもいい?
オレはゴミだから、望んじゃダメ?
小さな意味の無い葛藤のすぐ後で、一生懸命笑う鈴音
冷たい風が、鈴音の涙を攫って空へと飛ばしていく。
思えば思うほど心が壊れそうだ。
人間はそんな感情の果てに滅んだりしないんだろうか?
燃え尽きて灰になって空に消えて
その繰り返しならまだ救われる。
また燃えてしまえばいいだけだから
でもオレはずっとずっと燃えたまま、つのる灰は空に消えること無く増え続ける。
熱くて熱くて、苦しくて
でも燃やさずにいられない感情
それを誤魔化す為に、見て見ないふり
結局ゴミはゴミのまま燃え続ける。
汚染物質を出し続けて、いつか鈴音を犯してしまうんじゃないかって
欲しいという感情に負けて、鈴音を傷つけてしまうんじゃないかって、それがたまらなく怖い。
優しく頬を撫でて、その想いを隠す。