第22章 ラストダンスは猫の手をかりて
腕の中で微かに苦しむ声がする。
ハッとして腕の力を緩めて、顔を覗き込む。
「...痛い?」
頭を押さえて眉を歪ませる鈴音は、大丈夫と無理矢理笑う。
「...ごめん」
そっと腕の中から、鈴音を放した。フワリと広がる香りが、名残惜しい。
オレのせいだ。
オレの想いが鈴音を苦しめる。
オレの欲が鈴音を苦しめる。
オレなんて居なくなればいいのにと言いたいのに、それを止めるのは他でもない鈴音だ。
重い重い鎖を巻き付けられているみたいで、苦しいのにそれなのに...
鈴音の願ったワガママは、自分に都合が良すぎて
夢でもみてるみたいで
この夢から覚めたくないなんて、そんな馬鹿なことを願う自分がたまらなくおかしい。
苦しめるとわかっているのに、溢れる想いにフタをできないまま、ずっとずっと鈴音に囚われてる。
側に居たい、鈴音の側に自分の居場所が欲しい。
好きだとか、大好きだとかそれだけじゃもうきっと足らない。
欲が身を滅ぼすなら、滅んだって構わない。
それで鈴音にオレという存在を残せるなら、構わない。
...でも
「一松くん、私...もしかして...どこかで...いっ...」
オレのワガママのせいで、こんなゴミのワガママのせいで鈴音が苦しんでしまうなら
オレは居場所なんて望まないから...
痛みで頭を押さえる鈴音の頬に手を添えて、強く引き寄せる。
目を見開く鈴音
目を閉じるオレ
鈴音の後頭部を押さえて、自分の唇で鈴音の唇を塞ぐ。
唇を吸うようにキスをすると、チュルッとイヤらしい水音が聞こえた。
短いキスだけで、名残惜しげに離す。
はぁっと艶やかなため息に、とろんと溶けてしまいそうな表情をする鈴音の髪に指を絡める。
「今、言いかけたこと、忘れて」
「どう...し...んっ!」
口答えも、記憶も全部塞ぐ。
溺れてしまえばいい、今は何も思い出さないで?
僕に溺れて...