第22章 ラストダンスは猫の手をかりて
「ここにいるよ」
優しい手がオレの頬を包んだ。
視界が少し揺らぐ。
優しい顔をしている鈴音が、ぼやけていく。
どうしていつもこんな優しい言葉をくれるの?
「...鈴音」
名前を呼ぶ。
「うん、一松くん」
自分の手が少しづつ暖かくなっていく。
重ねた手から伝わる熱が優しすぎて、オレには暖かすぎる。
「...鈴音」
名前の一音さえも、心を暖める。
そのぬくもりに縋るように名前を呼ぶ。
チリンチリンとなる水琴鈴の音が響く。
オレのかわりに鈴音の名前を呼んでるみたいだ。
「一松くん、大丈夫、私ここにいるからね」
言葉が心の底に落ちて、溶けてく。言葉が溶けていけばいくほどに湧き上がる感情。
次の言葉を言おうとした瞬間に、パーティー会場から聴こえてくる切なげな音色に時が止まる。
ピアノ音が言葉を遮れば、鈴音の手がオレの肩にそっと触れた。
「...踊ろう、一松くん」
柔らかく微笑む顔を見つめる。
こくんと頷いて、重ねた手を強く絡めた。
ここにいるんだと言い聞かせてくれる鈴音
今ここにいてくれればそれで、そう思っていたはずなのに、いつ来るかわからない別れに怯えてその手を強く繋ぐ。
鈴音の中から消えてなくなるのが嫌で、それなのに自分にそんな価値なんてないと心の底でもう1人のオレが言う。
怯えるのは、オレが弱いから?
それとも鈴音が愛おしすぎるから?
ピアノの音が切なく鳴り響く。
揺れるドレスが闇に溶けていく。
闇に攫われないように、鈴音の背に手を添える。
どこにも行かないで欲しいと願うのは、欲が深すぎる?
「一松くん」
ハッとして目の前を見れば、感情の荒波の中から引っ張り出される。
「お願い、どこにも行かないで」
その言葉に目を見開く。
不安げに揺れる瞳と、ピアノの音が交差する。
違うよ、鈴音...
そう言いたいのは、僕のほう...