第22章 ラストダンスは猫の手をかりて
「一松くん?手貸して?」
掴まれていた腕を軽くほどいて、そっと手を重ねる。ビクッと震える手に、ふふっと小さく笑う。
「一松くんは、手が冷たいね?」
「なにそれ、誰と比べてるの?」
何故だかそんなひねくれた事を言われてしまう。
とくに意識したわけじゃないんだけど、どうやら癪に障ったらしい。でも、顔は赤い。
「んー、そうだな、その子の手はもっとモチモチしてて、ふあふあで柔らかくて暖かくて最高だった」
その言葉に、ムスッとする一松くん。
「...それ誰?」
「アルだけど?」
「...は?」
鳩が豆鉄砲くらったみたいに、ぽかんとする。
「うん、だからね?アルだよ?」
くすくす笑ってみせれば、みるみる赤くなっていく。
じいっと瞳を見つめれば、ふいっと違う方向を向かれる。
「拗ねてる?」
「拗ねてない、猫相手に拗ねるとかない」
耳まで赤くする一松くん、このひとは可愛いんだ。本当はとっても寂しがりなくせに、何故かいつも我慢しようとする。
「一松くんの手、好きだよ?だから拗ねないで?」
馬鹿みたいな話をしたのは、一松くんがとっても悲しそうな顔をしていたからだ。
瞳の奥に見える闇
まただね、私と話すと見え隠れする。
何かに怯えるような、悲しくて堪らないって目をこの人はよくする。その原因はきっと私にある。
「...鈴音」
小さく私の名前を呼ぶ。
私が初めてを一松くんにあげた日の約束を思い出す。
寂しい時は私を呼んで?
「うん、ここにいる」
そっと一松くんの頬に手を触れる。
迷子になってしまった子どものような、悲しい瞳が揺らいだ。
どうしてだかわからないけれど、彼が悲しむと私の心が痛くなる。
繋いだ手に少し力が入ってくる。
震えてる手を、包む。
体温を奪われて、一松くんと同じに近づく。
「ここにいるよ」
その言葉を紡ぐだけ、私にはそれしか出来ない。