第22章 ラストダンスは猫の手をかりて
「冬の香りって好き」
そう言って笑う鈴音が不思議だった。
冬に香りなんてあるのか?なんて思いながらすんと匂いを嗅いでみる。
けどオレの鼻孔を駆け抜けるのは、鈴音の甘い香りだけだ。とびきり切なくなる鈴音の香りだけ。
「...どうして?」
なんとなく聞いてみると、少し困ったような顔をする。まぁ、説明しろってのが無理だよね。
季節に匂いがあるとかないとか、考えかたなんてそれぞれだし。
こんなゴミに説明するのなんて、めんどくさいよね。
なんて思ってたら、返ってくる言葉。
「切ない、匂いがするから、でもその切なささえも愛おしく感じれるから」
まとまりきっていない答え、それなのにこんなに胸に届く。きゅうっと胸を締めつけるような感覚がする。
無意識のまま今の気持ちを言い当てられたみたいで、苦しくてたまらない。
切ないだとか、オレが思うなんて気持ち悪いよね。
こんなゴミクズにそんな感情あるなんて、口が裂けても言えない。
ましてや愛しいなんて、もっと言えない。
言えやしない。
天地がひっくり返ったってそんなこと言えない。
でも心にしまうには、あまりにもその気持ちは大きすぎて...
やり場のない想いが、自分の体を勝手に動かす。
「...踊ろう」
オレが誰かをダンスに誘うなんてことない。なんだってそんなことしてるんだろう?
そこに答えなんてなくて、きょとんとオレをみる目が愛しい。そんな愛しい手に、忍ばせる小さな勇気。
「...ゴミとじゃ、嫌?」
思っていたことを口にすれば、返ってくるのは予想外でそれでいて馬鹿な答え。
「私で...いいの?」
そんな当たり前のことを言われて、でもここでちゃんと言わないときっと伝わらない。どうしてわかるかなんてオレにもわからないけど、昔から理解力が足りないのはよく知ってる。
そっと頬を撫でれば、心が少し軽くなる。
愛しいなんて、言えないけど
この気持ちがあるのは、鈴音にだけだから
「...鈴音じゃなきゃ、誘わない」