第22章 ラストダンスは猫の手をかりて
沈黙が重い。
なんだ、なんなんだこの状況は、誰か教えて下さい。
思い返せば、一松くんと話をするのって夏祭り以降無かった気がするんだけど。
「あの...」
「...なに?」
「なんでもないデス」
「あっそ」
会話終了。
ダメだ、会話が全くと言っていいほど続かない。
それなのに、そんなに居心地が悪くないのはなんでだろう。
パーティーの賑やかな音とは打って変わって、こちらはとても静かで、耳をすませば虫の声が聴こえる。
「賑やかなのもいいけど、こういうのもいいね」
小さな虫たちの声に耳をすませる、人間にはけして演奏することのできない命の歌だ。
そんな歌を聴きながら手すりに手を付いて、上を見上げれば三日月が私に笑いかける。
冷たく澄んだ空気をゆっくりと吸い込めば、それはもう冬の香り。
その香りは心を切なくさせて、胸をきゅうっと締めつけるような、そんな香り。
でも
「冬の香りって好き」
私の一言に、どうして?と問う彼は少し珍しい気がした。
「切なく、なるから、でもその切なささえも愛おしく感じれるから」
フワリと笑って、整理しきれていない答えをこぼせば差し出される手
「え?」
不思議に思って首を傾げると、その意図を理解しない私に、耳まで赤く染めて真っ直ぐに見つめる瞳と視線がぶつかる。
「...踊ろう」
意外な一言に目を見開けば、体のすぐ横にあった手にいつの間にか忍び寄った冷たい手
「...ゴミとじゃ、嫌?」
少し悲しげに揺れる瞳、そんな顔をされたら嫌と言えるはずもない。
「...私で、いいの?」
何故そんなことを言ってしまったんだろう、口から出た言葉に自分でも驚く。
一松くんの手がそっと頬に触れる。
冬の空気で冷えてしまった頬に触れる手、頬を包む様に優しく撫でられると恥ずかしさがこみ上げた。
「...鈴音じゃなきゃ、誘わない」
彼の声以外の音が全て遠くに聞こえた。