第22章 ラストダンスは猫の手をかりて
鈴音をみてる。
みんなが鈴音をみてる。
そう思ったら、体が勝手に動いてた。チリンとなる水琴鈴の音。
「...動いたら、吸うから」
サッと腕の中に閉じ込めて、連れてきたのはパーティー会場から少し離れたバルコニー。
なにが起こったのかわからない顔をする鈴音の後ろに立つ。
「...寒い?」
耳元で囁けば
「一松くん?」
名前を呼ばれてこちらを振り向く前に、ドレスを投げた。
いや、別にたまたまだし
たまたまあったのを、たまたま出して
サイズとかたまたまあっただけ...
そんなことを頭の中だけで思いながら、鈴音が着替えるのを待つ。
終わったという言葉に、くるりと振り向いてみれば闇夜にドレスが靡いていた。
ドレスの深い紫色と黒が闇に溶けあって、鈴音自身がもう一つの夜みたいだ。
ごくんと唾を飲み込む。
「...普通」
「第一声がそれかい!」
ナイフを持ってにやぁと笑うと、大人しくなる鈴音
まぁ、そんなこと絶対しないんだけどね。
チリンと水琴鈴を鳴らしながら、ふいっと明後日の方向を向く。
いつの間に、そんな大人びた色が似合うようになったんだろう?
複雑な感情が、自分の胸の中に広がる。
じわりじわりとやって来るその感情が、たまらなく煩わしい。
通り抜ける風がそれを持って行ってくれたら、どれだけいいんだろ。それなのに、人生って上手くいかないよね。
風が持ってくるのは、フワリと香る鈴音の甘い香り。
トド松のつけた香水だ、それなのに匂いはオレの好きな鈴音の香り。
心がザワつく
近くに居るのに、こんなにも遠く感じるのはどうして?
空の月に目を奪われている鈴音を見つめると、胸が痛くなった。
鈴音は月に目を奪われて、オレは鈴音に目を奪われている。
大人びた横顔をただ、黙って見つめるだけ
たったそれだけなのに、息がつまりそうだ。
だけど、目を離すことはできない。