第22章 ラストダンスは猫の手をかりて
最悪。
「ねーえチョロちゃん、お前よく耐えてんね?」
ニヤニヤと私を見ていた馬鹿と言うなの、馬鹿松
その言葉に視線をずらしたチョロ松くんが、鼻血を噴水のように噴き出してぶっ倒れる。
「おっとぉ、チョロちゃん危なーい!」
わざとらしく棒読みでいいながら、チョロ松くんをキャッチしつつニンマリと私を見る馬鹿。
「な!あっ!見ちゃダメ!馬鹿!見んな!」
上半身をさらけ出すことに抵抗がないと言えば嘘になる。まぁ、色々ぶっ飛んだりしたらよく考えないんだけど。でもね乳丸出しとか、そんなの無理!
ぎゅうっと目をつぶってたら、耳元からチリンと綺麗な音がした。
「...動いたら、吸うから」
ボトリと何かを落としたような声が聞こえた瞬間、目の前の景色が揺らいだ。
「えっ、えっ!?!」
白い石造りの手すりの向こう側で、大きい三日月が夜の闇を背にたたずんでいた。
パーティーの賑やかな音が、遠くに聞こえる。
「そ、と?」
両手で自分を抱きしめつつ、腕を擦る。
真冬でないとはいえ、夜の闇に熱を奪われた石畳の上ではさすがに冷えこむ。
何より上半身裸なのだから、たまったものではない。
「...寒い?」
真後ろから声がする。
低い声だ。鈴の音色と声の察するところ一松くんであることに間違えない。
「一松くん?」
くるりと後ろを向けば、真っ黒になる視界。
「これ?」
「とりあえず着といたら?」
紫色と黒の綺麗な布を目の前で広げてみれば、それはドレスだった。お言葉に甘え、袖を通す。
ドレスがフワリと夜風に靡く、紫の中で黒が少し顔を出すフィッシュテールドレスだ。
「...普通」
「第一声がそれかい!」
興味無さそうに私をじーっとみながら、にやぁっと笑う紫の猫。
「あのままでよかったの?それならお望み通り掻っ切るけど...」
キラリと光る先ほどのナイフ。
一体全体どこに仕込んでいるのか、皆目検討がつかないんだけど、それでもって怖い。
「いえ、ありがたく着させていただきます」
「...うん」
ふいっと明後日の方向を向きながら、一言返事をして黙り込む。