第21章 ハロウィンの夜は危険がいっぱい?
「おや?久しぶりに会えたというのに、随分と無作法ではありませんか?」
ニコニコと笑っている目の前の男。
全身から汗がぶわっとあふれ、背中に伝っていく。
「な、んで...僕の...名前」
この男が、どうして僕の忘れたかった二つ名を知っているのかわからない。
「あぁ、今はチョロ松と名乗っているんでしたね?これは失礼いたしました」
それにしても、この声...どこで、どこで聞いたんだろ?
「いやぁ、それにしても素敵な演奏でした。本当に素晴らしい」
どうして、こんなにも足がすくんでいるんだろう?
「愛のワルツでしたかな?いや、貴方にピッタリだ。ワルツと言われていても、ドイツ舞踊のレントラーに近いもの、いくらワルツと吟っていてもワルツにはなりきれない...まるで貴方のようではありませんか?」
体の体温が奪われていく。心に突き刺さる言葉が頭に響けば、一気に力が抜け、バイオリンを持っている手がだらんと下へ落ちていく。
「その二つ名にふさわしい、異端者の貴方と同じではありませんか?どんなにワルツに焦がれても貴方はワルツのようになれない。粗悪品とでも言うのでしょうな?」
粗悪品...?
僕が?
冷たい皮肉を並べられて何も言えない僕に、耳元で囁かれた言葉は僕を奈落へ突き落とす。
「ところで、あの薬はお気に召しましたか?」
ゴトンと、バイオリンが床に転がる。
そうだ、この声だ。
僕を闇へと落とした声、大切な人を傷つけてしまった原因をもたらした声。
僕はその闇に引きずり込まれたんだ。
ガタガタと足が震える。
心をぐちゃぐちゃに掻き回されて、壊れそうだ。
床に視線を落とす。
怖い
周りが僕を見ている
嘲笑う声がする
僕が、異端者だと後ろ指を指す声
嫌な思い出が頭を巡り、思考を狂わせる。
ニヤリと笑う男、カタカタと震える指先はもう自分のものじゃないみたいだ。
静まりかえっている中で、男が一言発した。
「...何のつもりですかな?」
その声にハッとすれば、カチリと音がした。
男の後ろに立つ影、僕の知っている甘い匂い...
鈴音ちゃんの匂い