第21章 ハロウィンの夜は危険がいっぱい?
最後まで弾けてよかった。
僕はゆっくりとバイオリンから指を離す。
正直、人前で演奏するのは好きじゃない。
異端だと言われ続けた僕、それが心の傷となって僕は同じ種族の人達を遠ざけるようになった。
今は昔と比べてだいぶマシになったけど、皆心の何処かで僕を馬鹿にしてるんじゃないだろうかって思うと怖くてたまらない。
なのに不思議だ、鈴音ちゃんの為ならって思える僕もいるんだ。
周りから声援を受ける二人を、ぼうっと見つめていると、僕の視線に気づいたのか鈴音ちゃんがこちらへ向かってくる。
「素敵な演奏を本当にありがとうございました」
深々とお辞儀をするその仕草が、あまりにも綺麗で目を奪われた。
「い、いえ...」
綺麗すぎてどうしていいかわからない、言葉を失うほどに...
おどおどしながらも、瞳を覗けば強い光が僕をじっと見つめている。
その光に思うことは一つだけだ。
どんな姿になっても、鈴音ちゃんが鈴音ちゃんであることに変わりはないということ。
僕にとって大切な人であることには変わりないんだ。
歓声が遠くに聞こえる。
ジャック・オ・ランタンから溢れるオレンジの暖かな光が、鈴音ちゃんを柔らかく照らす。
目の錯覚かもしれないけど、この時僕の目には男の姿じゃなくて、いつもの鈴音ちゃんが見えていた。
優しく微笑む鈴音ちゃんが...
周りの事を忘れて、手を伸ばそうとしたその時だった。
パチパチパチ
響く歓声の中で、やけに目立つ拍手音。
昭明が弱くなってできた影から、ゆっくりとした音が響く。
周りの人だかりを掻き分けて一人の男が此方に歩み寄ってきた。
僕達二人の前で男はピタリと歩を止める。
にこやかに笑う顔に、何故だか悪寒が走った。
ゆっくりと口を開く。
「...さすが、松野家のご子息。松野いえ、ユフィール・ザリチェと呼んだ方がよろしいでしょうか?」
その声に、言葉に、僕は凍りついた。
「お久しぶりですね」
ニコニコと笑っているこの男を僕は知っている。
正確には、この声を...