第21章 ハロウィンの夜は危険がいっぱい?
右、左、次はナチュラルターン
頭の中で、そんなことを呟きながらアザゼルと踊る。
美しいバイオリンの音色
チョロ松くんがゆっくりな曲調のものを、選んでくれて助かった。
私達に寄り添うように奏でられるバイオリン、優しいチョロ松くんらしい音だ。
どこか懐かしくて、素朴なそんな曲。
その音色が不安だった私を後押しするように、鳴り響く。
その音に耳をすませて、小さなヒール音を鳴らし、目の前で真剣な瞳をして踊るアザゼルに集中する。
アザゼルのステップに気を配って、ワンテンポステップが遅ければそれに合わせる。逆に速ければそれに合わせる。
自分の体が自分の物でないような感覚にとらわれて、変な感じだ。
体は動いているけれど、それは自分の手から離れて別のところにあるようなそんな感覚。
1ステップ1ステップを、音を奏でるように....
一つの音がなければ完成しない音楽、ダンスもそれと同じだ。
だからこそ1音を1ステップを、慈しむ
そして目の前の相手を全力で思い、心を通わせるように...
そんなことを思っていたら、突然あたりが暗くなる。
何事かと思えば、小さなジャックオランタンが私達を包む。
優しいオレンジ色の光の中、一瞬だけ目に止まったのは、満面の笑み浮かべる十四松くんとにやっと笑う一松くん。
そして、柔らかく笑うトド松くんの三人だ。
「トド松様、笑ってる...」
すぐ近くで、小さな声が聞こえた。
その声に導かれて、目の前の顔を見ればトド松くんと同じように柔らかい笑みを浮かべていた。
「...ありがとう」
目に涙を少し貯めて笑うアザゼルが、初めて可愛いと心から思った瞬間、永遠に続くかと思っていた演奏がピタリと止まる。
それと同時に、私達のステップもピタリと止まった。
カツンと響くのは、ヒールの名残音。
しばらくの沈黙、音のない世界が数秒私達を包む。
そんな音のない世界で、そっとアザゼルの手を離す。
一歩後ろへ下がり、アザゼルに深くお辞儀をした
次の瞬間だった。
ワァァッッという歓声と共に、大きな拍手が鳴り響いた。