第21章 ハロウィンの夜は危険がいっぱい?
美しい狐と、アザゼルの様子を遠くから見ていた。狐がアザゼルの目の前に現れた瞬間に、俺の祈りが通じたのか、などと思ったがどうやらそうではないらしい。
ふっ、神はいたずら好きだぜ
あの動き、間違えない
ずっとダンスを練習していたんだ、俺がわからない筈がない。
「レディ.... 」
俺は目を見張る。
美しい白い耳と、雲のように柔らかそうな九本の尻尾が揺れている。
実は、レディにダンスを教えていた時、男性はどうするのかと男性用のステップも一緒に練習した。
あの時は不思議でたまらなかったが、こういうことだったのか。
漆黒の長く美しい髪が、金色の髪を導くように線を描いていく。
その光景はあまりにも美しい。
黒と金のぎこちないダンス、それなのにこんなにも心に染みる。
「それにしても、チョロ松のこの選曲....」
目を閉じて、チョロ松のバイオリンに耳をすませる。
ブラームスのワルツ、第15曲目だ。
題名は....
「愛のワルツ....か.... 」
ブラームスの作曲した曲、ブラームスの才能を好意的に批評してくれたハンスリックに、感謝をこめて贈られた物だ。
堅物だったブラームスがワルツを作曲したことを、あのブラームスがと驚かれた曲。
その曲調は、緩やかでそれでいて素朴。
貴族がワルツを踊るための物ではなく、一般庶民がお祭りなどで踊るドイツ舞踊のレントラーと呼ばれるものに近かったはずだ....
「ふ....美しい音色だな」
けしてきらびやかだとは言えないが、こんなにも心に響く演奏を聴いたのは久方ぶりだ。
まぁ、チョロ松がバイオリンを大勢の者の前で弾くことすらまれだからな。
チョロ松は人前に出るのを極端に嫌う傾向がある。その理由は自分が異端者と言われ、馬鹿にされてきたからだ。
それなのに....
「ふっ....全く、チョロ松にバイオリンを弾かせるなんて....レディ.......」
人の心を動かすことに秀でているのか?
非凡なる才能というやつか、はたまた魔性の女というやつなのか。
今は、男だが....