第21章 ハロウィンの夜は危険がいっぱい?
レッドカーペットの中、目的の人物の目の前でピタリと止まる。
金糸のような髪の小さな女の子は、ピンクと白のレースでできた可愛いらしいドレスに身を包んでいる。
ピンクを基調としたドレス、それは一人のヴァンパイアへ向けられた抱えきれないほどの想い。
「こんばんわ、素敵なお嬢さん、よろしければ、一曲お相手していただけませんか?」
青い硝子玉のような瞳が、じっと私を見つめる。
「私....踊りたい人が他に....それにダンス下手くそだし....」
その瞳に映っている人物はたった一人、それはわかっている。けれどその願いを私は叶えてあげることはできなかった。
下を向いて、一人の愛しき者を思うこの子を誰が責められるだろう?
たとえ私を嫌っていたとしても....
もしかしなくともこれは、自己満足なことなのかもしれない。
それでも、一生懸命ダンスを練習するこの子が、私と被ったのだ。
この子を笑顔にしてあげたいと願うことはダメなことなんだろうか?
「わかっております。ですが....私は貴女と踊りたい」
その一言に恐る恐る上を向く頬に、そっとハンカチを当てる。
綺麗な涙だ。
きっとトド松くんの事が好きで好きで仕方ないんだね、アザゼル?
「この....匂い........私の好きな....香り.... 」
その一言に思わず微笑んだ。
香りは、人の心を包み安らぎを与えてくれる。
素直でない人だ、本当は優しいくせに不器用なのだから....
そして、思い出すのは一人の優しいヴァンパイアの言葉
「今宵は嫌な事を忘れて、私に身を任せればいい.... お嬢さん」
その一言に小さな右手を差し出すアザゼル。
私はアザゼルの小さな手をそっととる、優しく優しくだ。
大丈夫、私にダンスを教えてくれた先生は、イタくて心が広く優しい紳士だった。
だから今度は私の番、貴方が教えてくれた優しさでこの子を笑顔にしてみせる。
今ならハッキリと言えるよ、ダンスを教えてくれたのがカラ松、貴方でよかったと。