第20章 桜が舞えば想いは消える
「こうして化け物は、その女の子から最愛の人の記憶を消してしまいました....」
話を聞きながら、ずっと鏡の中のトド松くんを見ていた。
表情はあんまり変わってなかったけど、目はどこか寂しそうで....
「悲しい....話だね」
そう呟けば、ふふって力なく笑う。
この人も私と同じで、過去に囚われて生きてる。
紡がれる物語があまりにも悲しくて
「そのヴァンパイアは....酷いやつだね」
私がそう言えば、そうだねって笑う。
ニコって笑ってるけど、きっと心の中では笑っていない。
「全部一人で背負ったんだね....馬鹿だよ....
自分を許してあげたらいいのにね.... 」
その言葉を発した瞬間、髪を一瞬強く引っ張られた。無意識だろうか、手にこめられた力が痛い。
「そんなこと、できないと思うよ?そいつが出会わなかったら、人間は死ななかったんだから」
私の髪の中で震える手をそっと包んだ。
「もし、そのヴァンパイアが自分を許すことができないんだとしたら、人間が言った言葉は嘘になっちゃうね」
私の一言に大きな目をさらに大きくして見開く。
「人間が出会えて良かったっていってくれたなら、ヴァンパイアがそれを否定したらそれは嘘になるでしょ?そんなの、悲しいよ」
鏡の前にうつる自分の姿を見て、にこっと微笑んだ。
高く結われた髪、美容師がしたんじゃないかと錯覚するほどに綺麗な仕上がりだった。
黒髪の良さをよくわかっている。
黒を引き出すために添えられた淡い桃色の桜。
季節外れのその花が私の髪に寄り添うように咲き誇っている。
「すっごい綺麗だね、トド松くん美容師さんみたい」
鏡の中の自分は、ヴァンパイアが人間に想っていた感情を教える。
その人間を心から祝福していたことの証を
「ねぇ?もしもそのヴァンパイアに会うことがあったなら伝えて?」
私はくるりとトド松くんの方に向き直る。
「きっとね、その人間はヴァンパイアに出会えて幸せだったと思うって、だから自分を責めるのはもうやめてって、じゃないといつまでも人間は懺悔室を閉めることできないよって....」
懺悔室は自分を許すためにあるのだから....