第20章 桜が舞えば想いは消える
「愛してた?ふふっ、滑稽だね?信じれなくて愛してたなんて、どの口がいってるの?」
にっこりと笑みを張り付けてそう言えば、怯える瞳が僕をうつす。
「....だから、貴方を待ってたんです」
震える声で、何を言い出すのかと思えば
「ふーん?それで?謝るため?なんのために?言っとくけど謝られたってあつしくんは生き返らないんだよ?」
酷いことを言っているなんてわかっていた。
僕の言葉が、この子の心をぐちゃぐちゃに傷つけていることも
でも言わずにはいられない。
「....殺して下さい」
つうっと一筋涙がその子の頬を伝って落ちる。
「お願いします....私、私は彼がいない世界でなんて....生きていけないんです.... 」
なんて、身勝手な女なんだろうって思った。
殺して欲しいなんて、そんなの....
「....身勝手な女だね?わかった、殺してあげる」
にこっと笑いながら、右手に力をまたこめる。
また徐々に絞まっていく細い首。
苦しいはずなのに、それなのにとっても幸せそうな顔をしていた。
「あ....つし....いま.... 行く.... か....ら.... 」
言葉と同時に気を失う。
ポタリとその子の涙が床を濡らす、僕はこめていた力を一気に緩めた。
「そんな....幸せにさせるわけない」
仰向けに下ろしたその子の目に、そっと手を乗せる。
ゆっくりゆっくり力を解放すれば、ふわりと舞う桃色の光
暗かった懺悔室が僕の光に染まる、そこはまるで桜が満開に咲き誇ったような空間になる。
目をつむって、その記憶だけをつかんで引っ張り出す。
とたんに月明かりだけになる室内。
力のはずみで開いてしまった窓から、本物の桜が舞い落ちて入ってくる。
何枚も何枚も、泣いてるみたいに。
「自分だけ幸せになろうなんて、身勝手だよ。
そこで一生罪を忘れて生きなよ.....」
自分の首もとで揺れるロザリオを一度握り締め、外した。
気を失っているその子の胸元にロザリオを置いて、お腹に手をのせる。
手に伝わる小さくて温かな鼓動....
あつしくんの生きた証....
「....ごめんね」
そうっと呟いて、僕はその場を立ち去った。
結局懺悔もできないまま....