第20章 桜が舞えば想いは消える
桜....?
迷いこんだ桜の花びらを一枚、そっと手に乗せる。
淡い桃色の花びら、柔らかいその色を見つめた。
そっと窓から手を出して、包むように持っていた手を水平に開けば風に乗って空へと舞い上がる。
「....あつしくん」
何かを呟くたびに出る名前に、そろそろうんざりだ。
その名前を出すたびに、自分の首を締め付けていくみたいで苦しい。
いっそ息ができなくなった方が、ずっとずっとスッキリするのかな?
チャラッと取り出すのは、金のロザリオ
金のチェーンにぶら下がるロザリオを空中でゆらゆらと揺らす。
今の僕の心と同じだ。
ゆらゆらと揺れるその動きにうっすらとそんなことを思った。
あんまり連動するものだから、それが嫌になる。
なんでも見透かすあつしくんを思い出す。
嫌でも思い出すんだ。
ぐっとロザリオを握り締めた後に、バッと空へ向かって投げようとしたけど....
投げることなんて出来なくて、はぁっとため息を一つ吐く。
じっとロザリオを見つめる。
あつしくんの言葉が浮かぶ。
どんだけ好きだったんだよ、僕
気持ち悪....
そっとロザリオを自分の首にかけて、窓枠に立つ。
ゆっくりと空中に身を投げて、窓から飛び降りた。
久しぶりに飛んだ空に浮かぶ満月をじっと見つめる。
ひらひらと僕とともに飛ぶ桜が月明かりに浮かべば、死ぬ間際でさえも約束ごとについて笑っていたことを思い返す。
「約束....」
小さな声が桜吹雪の中に埋もれる。
今なら、あつしくんが言っていたことを理解できるよ
目を瞑って、まだ少し冷たい夜風に身を任せる。
それでもまだ晴れない僕の心。
そうか。
だから其処があるんだね。
空に語りかけてから、僕はその場所へと向かった。