第20章 桜が舞えば想いは消える
「さて、あつしくんだったね?化け物はどうした?」
鼻につく純銀の匂いに吐き気を覚える。
ドクンドクンと鳴る心臓の音。
後どれくらいこの音を聞いていられるのかと思いながら、会話に耳をすませる。
「なんのことでしょう?俺にはわかりません」
馬鹿だな
そんな言い訳が通じるような相手じゃないことくらい、本能でわかってるはずなのにさ。
「君?あの化け物を助けようというのかな?博愛主義というわけか?まぁ、それはいいだろう」
意外な言葉に、ごくんと唾を呑む。
「だが....周りはどうだろうね?」
メラメラと燃えるタイマツが、何個もゆらゆらと揺れてる。
僕への憎悪の分だけ光があるんだと思うと、体が震えた。
「あつし様は神父様でしょう?何故化け物を庇うの!?」
「そうだそうだ!化け物を!血を吸う化け物をだせ!!」
口々に聞こえる僕への怒りや憎しみ。矛先がどうして僕に向いているのかはわからないけれど、気持ちいいもんじゃない。
「さぁ?どうする?」
銀の仮面が冷たく笑っていた。
燃えた憎悪が、そう簡単に消えることなんてないんだ。
「....俺は、血を吸う化け物なんて知らない。お前らがそう呼んでる化け物がどんなやつかも。」
嘘八百じゃんなんて思えば、あつしくんに浴びせられる罵声
「嘘だ!どこだ!化け物をだせ!お前が連れ出したアイツのことだ!!」
化け物って僕のこと?
やめてよね、こんなキュートなヴァンパイアつかまえて....
なんて冗談めいたことを考えてみる、死ぬ直前でこんな馬鹿なこと考えるってどうなんだろうなんて思いながら
そんな時に聴こえたのは、凛とした真っ直ぐな声
「知らないね。地下に捕まっていたのは俺の大事な友達だ」
あーあ
言っちゃったよ。
馬鹿だ
なんでそんな自爆みたいなこと言っちゃうんだよ、いつもいつも結論を先に言っちゃうから、誤解を生むんだ....
本当に....
つうっとまた、雨が一筋僕からこぼれ落ちて胸元を濡らした。