第20章 桜が舞えば想いは消える
「嫌な匂いがする」
言葉をこぼせば、それ本気と書いて本当?なんて間抜けなことを言い出す。
「あのね?ふざけてる場合じゃないよね!?馬鹿なの!?ぐっふごっふ!」
「うわ、今すごくおっさんくさい声出たよトド松くん」
「誰のせいかわかってんのか!」
かすれ声で叫びながら刺されたお腹を手で押さえる。
押さえた手を月明かりに照らせば赤く染まっていた。
道をそれて、桜の木の影にうずくまる。
「傷口ひらいてるね」
ビッと神父服の袖をやぶき、ぐっとお腹に巻かれた。
「トド松くん、もう動けそうにないよね」
確かに、動くのは辛い。
でも段々近づいてくる複数の匂いと、一人ヘドがでそうに嫌な匂いに顔をしかめる。
「その顔の察するところ、相当に危ないってことが想像できるんだけど」
「うん、正解だよ」
明るく言ってみるものの、状況が好転するわけでもない。
「あつしくん、諦めよ.... 」
「うん、却下」
即答して笑う。
「トド松くん、俺と約束して」
いきなり真剣な顔していうもんだから、何事かと思えば、何があってもここにいてって言われた。
その言葉に思わず腕を掴む。
「....なにいってんの?一人でどうす....!」
こんな時にかぎってずきんっとお腹が痛んだ。もう動けそうもないことを体が僕に訴える。
顔をしかめる僕の目にうつるあつしくんは、そっとつぶやく
「俺さ、トド松くんを刺したこと凄く後悔してる。自分の親人質にとられてさ.... トド松くんを見殺しにした。」
悲しそうに下がる眉が、痛いほど気持ちを伝える。
「俺も、トド松くんが言う醜悪な人間なんだ。だから、醜悪だからトド松くんも助けたいわけ。両方選んで何が悪い?」
人間だとか、ヴァンパイアだとかそんなことを忘れられた。
そんな人間に出会えたのはこれが初めて、自分がボロボロになってるのに、許そうと思ったのもこれが初めて
だから
「いっちゃ、やだよ....」
か細い声でそういえば、ばっと立ち上がる。
「俺もすっげー怖いよ」
そういって僕に背を向ける。
「俺さ、トド松くんのこと本当に友達だと思ってる.... 」
にかっと笑って、あつしくんは行ってしまった。
追いかけようにも、動かない体。
「みつけた」
あつしくんの去っていった先で、聞きたくない声がした。