第20章 桜が舞えば想いは消える
「トド松くん、俺のこと殺したい?」
唐突な質問が夜風とともに僕らの間にすり抜ける。
「全然」
即答した。
自分からすぐに言葉が出るなんて思いもしなかった。
「そっか.... 俺もだよ」
にっと笑う顔を月明かりが照らす。
痩せてほけてしまった頬が、僕に教えるんだ。
言わなくてもわかるよ。
悔いていることも、僕の為にそんなガリガリになっちゃったことも
包帯でまかれた僕を支える腕
こんなに傷つくまで、いったいどれだけ無茶したの?
「なんで泣いてんの?」
「知らないよ、僕だってわかんない」
地下牢で流した涙とは違う。
「ごめん、もっと早く助けたかったのに、辛かったよな。俺、何も何もできなかった」
嘘つかないでよ。
違うでしょ?
「助けてくれたじゃん」
「そもそも刺したの俺だよ?」
「刺したやつわざわざ助けるとか馬鹿だね」
「ほんとにな」
歩く道に雨が降る。
二人して泣いて、男だよ僕ら?
情けないなってお互いに言い合いながら
雲一つない空に半分の月がひっそりと佇む。
優しい光が照らす道をゆっくりと歩けば目につくのは、ちらほらと咲く桜だ。
桜をみながら思い出す約束を、ぽつんとこぼす。
「花嫁の髪を結う時さ、桜入れたら綺麗なんじゃないかって思うんだけど」
その話に、嬉しいような悲しいようななんとも言えない顔をする。
「でも....もうここに来ないほうが.... 」
「馬鹿だな、約束は約束じゃない」
変装でもなんでもやって駆けつけるよ。
なんたって僕はヴァンパイアだよって笑うと、そんなこと忘れてたなんていうんだ。
本当に人間にしとくのが惜しいよ。
こっちの世界に来ないかって冗談混じりに聞いたら、その頼みだけはやっぱりのめないから勘弁して欲しいって....
....黒い足音がすぐ後ろまで来ていることに、気づかないで笑ってた。