第20章 桜が舞えば想いは消える
焼きごてを当てられて数日。
その部分がじくじくと痛んで仕方なかった。
その分だけ、人間への憎しみが増していく。
増した分だけ、心が張り裂けそうで....
苦しくて辛くて
心を憎しみでいっぱいにできたなら、まだ楽なのに....
それなのに....
僕の傷口を何度も何度も冷たい優しさが包む。
ひんやりと冷たい布が、僕の怒りを抑える。
冷やされた熱の蒸気が集まって、目からこぼれ落ちて、石畳を濡らす。
それを何度も繰り返し
もう朝なのか昼なのか夜なのか
時間の感覚も狂う。
僕の心も狂う。
死んでやろうとするたびに、聴こえる言葉が不愉快で
不愉快で....しかたない
「もう少し、もう少しだから.... 生きてて」
そう言って、運んでくる血の味
馬鹿だな
なんでそんなに馬鹿なの?
僕が気づかないとでも思っていたの?
なんで泣いてんの?
泣きたいのはこっちなのに?
誰にやられるより、君にやられることが一番悲しいのに....
裏切ったんでしょ?
僕を裏切ったのに、なんでそんな悲しそうに僕に生きてというの?
「ほん....と.... じぶ.... 勝手.... 」
「明日.... 迎えに来るから」
爽やかに笑う口元。
広がる血の味
ほんのりチョコレートの味がする血の味
目を開けた先にフラつきながら、上へ戻っていく情けない後ろ姿
僕、人間が憎くてしかたないのに
....急所をわざと外したことなんて気づいてたよ、クソ痛かったけど
「階段でつまずくとかどんくさいな、ほんと」
いつも口上手いくせに、下手くそだよ嘘が
人間がこんなに血を流したら、貧血起こすに決まってんのに
ぼんやり見える手元
利き手が包帯でぐるぐるまきになってる。
僕のことボロボロにした奴等の血が身体中から匂ってくるよ
ねぇ?
何がしたいの?
こんなんじゃ
僕、あつしくんのこと最後まで憎めないじゃんか....
人間が嫌いだなんて
言えなくなるじゃんか....
馬鹿だな.....
僕もあつしくんも....