第20章 桜が舞えば想いは消える
ひやりと冷たい何かが、腰を優しく拭う。
冷たくて、気持ちいい。
僕何をしてたんだろう、記憶が飛び飛びでよくわからない。
焼きごて当てられて、そっからの記憶がない。
動かない体、世界中の重力を集めたものを体内に取り込んだみたいに重く重くのしかかる。
体の重くなる呪いみたいなんて馬鹿なことを考える。
「トド松くん」
聞き覚えのある声に、かすかに指を動かす。
口に広がる血の味、自分の血の臭いで鼻がまがりそう。
そんな狂った空間に聞こえるよく知る声
それとともに自分の喉がこくんと動く
いつもだ。
痛みに耐えられなくて気絶して、起きた後に血の味がうっすらするんだ。
僕を生かそうとしてるの?
これ以上苦しめて何が楽しいっていうの?
つうっと一筋なにかが、僕から流れた。
「ね....ぇ.... ど.. う.... し...て.... ?」
蚊の鳴くような声で、必死に言葉を紡ぐ。
どうしてとしか言えない。
僕は....
君のこと、かけがえのない友達だって思ってたよ?
それなのに、どうして僕のことを刺したの?
どうして僕のことを?
「....友達だからだよ、トド松くん」
いつもそうだ
いつも主語がないんだ
ねぇ?
どうして結論から先に言うんだよ?
「と.... も..... だち....?」
「そうだよ、だからもう少し.... 頼む.... 生きてて」
普通友達が友達を刺したりすると思う?
思わないでしょ?どの口が言ってるんだよ?
そんなことを思っても、もう僕にしゃべる元気はなくて。
「トド松くん...もう少し、もう少しだから 」
もう、人間なんて信じたりなんかしない
そう思っているのに
なんでうなずいちゃうんだろ?
ぼやけた視界の中に、ぼやけた視界の友達が映る。
泣きたいのはこっちだよ....
そう思ってふっと笑う
口に広がる血の味が、やけに甘い気がした。