第20章 桜が舞えば想いは消える
...... 新月だ
月が出ていない日は、僕たちにとって都合がいい。
「あつしくーん」
教会のドアを開いて一歩また一歩歩く。
誰もいない夜に響くのは僕一人の声。
手に持ったたくさんの桜
これならきっと花嫁に似合うはずだと、僕の庭から切り取ってきた。
チョロ松兄さんの言ってたことが気になってなかったといえば、嘘だけど
早くみせてあげたかった。
それで、あーだこーだ話したかった。
「あつしくん、居ないの?」
辺りを見回しながら、歩いていく
真っ暗な教会
ふっと笑う。
初めてあつしくんに会ったのも、こんな新月だったと思いだす。
あれから一年くらいかな。
人間とそんなに長く一緒にいることになるなんて、一年前は思ってもみなかった
人間じゃない僕にとって、その時間は一瞬
だけどこんな心に残る一年はなかった
一つ一つ思い出を巡らせれば、自然に灯る笑み
ふと上をむく。
一年前には逆方向を向いてたから、見えていなかった大きな十字架
出会い方は最低、でもそれから紡いできた時間はかけがえのないもので忘れられない
僕の一生に残る
そんな一年
「僕、あつしくんに会えてよか.... 」
時が....
止まった....
ふと自分のお腹をみる
キラリと光る、貫通した剣
口に広がる、血の味
それは、あまりに突然の出来事で
自分にも何が起こったのか理解ができなくて
鈍く広がっていく痛み
ただ目の前にある現実を受け止めるしかできなくて
「トド松くん.... 」
後ろから聞こえる声
僕のよく知る声だ、よく知ってる匂い
紅茶の香り
床に落ちて散らばるのは、桜
そして
僕の血....