第20章 桜が舞えば想いは消える
トントントン
ピンクの扉から、軽い音がきこえた。
どうぞと言ったら、かちゃりと音がして入ってきたのはチョロ松兄さんだ。
「トド松、今ちょっといい?」
僕はアザゼルの髪を結うのを中断する。
「アザゼル、ありがとう下がっていいよ?」
にこっと笑うと、また呼んで下さいねといいながらアザゼルは扉の外へ消えた。
「で?なに?チョロ松兄さん?」
「トド松お前、人間と仲良くしてるでしょ?」
なーんだそんなことーなんて言いながら、空中に浮かぶ。
どうせまた危ないだとか、そんな面倒なこと言ってくるんだろうな。
「あんまり人間と関わっちゃダメだっていったはずだよね?」
「あーもう!またその話??」
ほんと毎回毎回うるさいったらない。
そもそもどうやって人間といることを調べてきてんの?
きもっちわるい。
「僕は心配してるんだ、トド松....わかってるだろ?」
困ったように眉を下げて、口をへの文字にしたチョロ松兄さんが僕をじっと見つめる。
「もー!僕はチョロ松兄さんみたいに非力じゃないよ!」
グサッとチョロ松兄さんの胸に物理的じゃないけど、矢が刺さる。
「それに、チョロ松兄さんみたいに人間世界に行っても挙動不審になったことなんてないし」
グサグサッっと矢が刺さる。
「殺す気か!」
「ごめん、僕だって言いたくなかったよ」
「じゃあ言うなよ!」
そんなやり取りをした後に、はぁっとため息を一つ。
「いい?トド松、人間と仲良くするのは悪いことじゃないよ.... でも.... 」
チョロ松兄さんが言いたいことはわかってた。
その出来事を口に出したくないこともわかってた。
少なくともそのせいで....
ゆっくりと瞬きをして、記憶を打ち消す。
「わかってる、大丈夫だよ?僕は兄さん達じゃないから」
手に持ったくしを眺めながら、僕はその時のことにそっと蓋をした。