第20章 桜が舞えば想いは消える
「....誰?」
扉の前で、ピタリと止まってくるりと後ろを向く。
ゆらりと黒い影が一つ、教壇からゆっくりと出てくる。
やだ、幽霊かなんか?
やめてよね、僕そっちサイドだけど幽霊はダメなんだよ。
なんて考えてたら、つかつかと足音が聞こえる。幽霊に足なんてないから、幽霊ではないみたい。
その黒い影は僕の目の前でピタリと止まると、スッと何かを渡してくる。
「落ちたよ」
短めな一言とともに、渡されたものは僕が捨てたピンクのハンカチ。
爽やかに笑う男。
年は20代かそこそこくらいだ。
こいついつからいたんだろ?
「ねぇ?どこまで見てたの?」
見てるにしても見てないにしても、どっちにしても面倒だ。瞳に少しずつ力を宿す。
「どこから?あー、最初から?なかなか激しいプレイしてたけど俺はあんまり好きじゃないかな?」
なんていいながら、普通に笑うその男は首に金のロザリオをつけていた。
「あーでも、場所設定は好きだわ、神の身元でヤるってのがいい感じかな」
爽やかな笑顔でとんでもないクズな発言をする。ロザリオからしてこいつキリスト信者のはずだよね?
ほんとウケるんですけど
「一応聞くけど、僕が血を吸うとこみてたよね?怖くないわけ?」
なんていったら、そりゃ怖いなんて正直にいうもんだから心の中で笑った。
じゃあなんで声かけたのって僕が、聞いたらさ?そいつなんて言ったと思う?
「タバコの匂いが好みだったから、仲良くなれんじゃないかなーって」
これまた爽やかな笑顔でそう言うから、馬鹿なんじゃないかって思った。
「仲良く?馬鹿じゃないの?僕ヴァンパイアだよ?あんたキリスト信者でしょ?よろしくないんじゃない?」
ふっと小バカにしたように口にしてみれば、一瞬きょとんとした後に笑った。
「あー、ただたんに親が神父してるだけだけど?俺神様とか信じてないから」
爽やかな笑顔して、見も蓋もないことをいうもんだからおかしくて笑った。