第20章 桜が舞えば想いは消える
女が出ていった後に、静寂が訪れる。
口元をぐいっと薄いピンクのハンカチで拭き取れば、ピンクが汚い茶色にかわる。
不味い血の色だ。
もうこのハンカチ使いたくないなと思って、床にぽいっと投げる。
「口直ししよーっと!」
懐から一本タバコを出して、口にくわえる。
しゅっとマッチを一本すれば、ぽうっと手元だけ少し明るくなった。
目が闇に慣れているせいで、少し眩しく目を細めながらタバコに火をつける。
煙を吸い込んで、ふうっと息を吹き出せば広がる紅茶の香り。
馬鹿みたいにタバコは吸わないんだけどこれは別、僕のお気に入りのタバコだ。
舌に広がる苦味と、紅茶のほんのり甘い香りが僕的に好き。
少しの間タバコを楽しみながら、またくだらない考え事。
なんで兄さんたちって、人間のことを割り切れないんだろうとかそんなのね。
おそ松兄さんもそう、カラ松兄さんも同じ。チョロ松兄さんは、能力的な問題かな。なんて言ったらガチギレされそうだけどね。
一松兄さんはもともとそんなに人間に興味ないみたい。
十四松兄さんは....
兄さんは優しすぎる。
人の心を思いやれるし、人を傷つけるのも嫌う優しい兄さん。
まぁ、そう思ったら馬鹿松兄さんも似たようなもんか。
それが僕にはいつも理解できなくて、兄さんたちと食い違う。
....共存?
馬鹿馬鹿しい....。
兄さんたちは人と接する機会が少ないからそんなふうに思えるんだよ。
汚い人間なんてごまんといるよ?
いい人間の方が少ない。
欲深くて、その欲のために僕に擦りよってくる女
あぁ、男もいたね?
手軽な女が居ないときは男を誘ったりもする、気持ち悪くて吐きそうになるけど
そんな奴等の血を吸う僕も、汚れてんじゃないかななんて思ったりなんかして....。
「さーて、僕もそろそろ帰ろっかな」
教壇から飛び降りて、扉へと向かう。
「待って」
誰も居ないはずだったのに、僕を呼び止める声が静寂に響いた。