第20章 桜が舞えば想いは消える
「もう!とりあえず前!前向いて!」
そういってトド松くんが私の髪に手をかける。ちょっと強引な言い方のくせに、髪に触れる手は優しい。
ゆっくりと櫛を通される、そのたびに髪がさらさらと落ちていく。
「僕が、人の髪の毛セットするとかめったにないんだからね?」
なんてブツブツいいながら、丁寧に髪の毛をとかれる。
人に髪の毛をとかれることとか、ほとんどないからなのかな?
変な感じ
後ろに引っ張られる髪の毛、だからといって痛いわけでもない。
ゆっくりと優しく労って、とかしてくれているのがわかる。
「トド松くんさ、髪の毛いじるの上手いよね?」
ポツンと言えば、大きな瞳が少しだけ揺らぐ
とくに特別なことを言ったわけではないのに、なんでだろう?
「そう?普通だよ、普通」
笑った。
きっと注意深く見ないとわからない変化だ。
鏡越しに見える瞳は、どこか寂しそうで....
あぁ、私の嫌いな笑顔にそっくり、私とよく似ている笑顔だ。
過去に囚われている人の目をしている。
「なんで、そんな悲しそうに笑うの?」
その一言に、ピタリとくしをとく手が止まる。
さらっと重力にまかせ、私のもとに戻る髪
「ねぇ?いつも思うんだけど、どうして鈴音ちゃんって気づいて欲しくないことに気づいちゃうの....?」
消えてしまいそうな声、口元は笑っているのに眉をさげる。
そんなちぐはぐな表情を浮かべて、どうしてだなんて聴かれてもわからない質問。
「わからない、わからないけどわかるの」
そんな曖昧な返事を一つ。
自分と似ているから、なんてそんなことを言えるはずもない。