第19章 金木犀の香りはデートの予感?
「もっと.... もっと早く.... 拐っちまえばよかった.... 」
耳元で聴こえる声。
誰もいない、寂しい思い出の場所で響く声。
強引で、とても温かい言葉。
なんでこんな話をしてしまったのか....
思い返せば自分の為に泣くことなんてなかった気がする。
涙、それは弱さ
自分の為に流す涙は弱さだと、そう思って生きてきた。
笑わなきゃ、笑わなきゃと思って生きてきた。
だから、あの時私の目の前で同じことをしていた十四松くんに叫んだ。
あれは自分に向けた言葉
さよならも言えないまま、お別れをしなければならない悲しみを知っていたから....
「ありがと....おそ松.... ごめん.... ごめんね」
せきをきったように溢れ出す感情、後から後から止まらない悲しみ
壊れてしまいそうだ....
そんな私の頭に乗せられた温かい手は、私の深い傷を優しく撫でてくれているみたいで
心地よくて、それでいてこんなに安心する。
セッターの匂いとおそ松の匂いが混じる。
何故かとても、なつかしい。
「お前はもう一人じゃねえだろ?だからもう一人で思い詰めるな.... 」
いつも馬鹿なのに、なんでこんなときは馬鹿じゃないんだろう?
どうして?
教えておそ松
上を向けば、とても切なげな瞳で私をみる
胸が
苦しい....
こんなに近くにいるのに、もっともっとと
甘えたくてたまらない感情が溢れ出す。
「おそ松....お願い.... 今は、今だけは....甘えさせて....?」
言葉と同時にぐいっと体ごと抱き寄せられて、膝の上に座らされた。
「....お兄ちゃんの胸で泣きな?受け止めてやる、全部な?」
にかっと笑った後に、ぎゅうっと抱き締められた。
「....おそ松.... ばか.... ばか.... ふうっ.... ばかぁ.... 」
泣きついた腕の中は、あまりにも温かくて涙が止まらなかった。