第19章 金木犀の香りはデートの予感?
目をつむれば、鮮明に思い出される。
弟の顔
よく私の名前を呼んで、お姉ちゃんと慕ってくれた。
可愛い弟
「....ほんと、可愛い弟でね.... お母さんなんか、とくに弟に甘くて.... でも弟は私の方がお母さんより好きなんて言ったりしてたっけ」
私の話を黙って聞いてくれるおそ松。
ここに来たのは、失敗だったかもしれない。
「ちょうどこれくらいの時期だったの....金木犀の匂いをかすかに、覚えてる。
弟は体が弱くてね、死んじゃったの.....私が小学生の頃に....だからここがなくなる前に、ここに来たかったの」
楽しかった思い出をもう一度取り戻したかった。
でもそれを塗り替えるのは、悲しい記憶だった。
「お母さんは、優しい人だった。とても愛情深くて、深すぎたんだね?弟が死んで、心を病んだの....」
「....それで?」
うつ向く私に、優しく問いかけるおそ松
どうして、こんな話をしているのかわからないけど....
ここ最近そんなことをよく思い出してしまう。
誰のせいでもない、おそ松達みんな仲がいいから何処かで羨ましかったのかもしれない。
「お母さんは、私を否定するようになった。辛かったんだろうね?それで、自分を責めるだけじゃ足らなくなったんだね。
私がかわりに死ねばよかったなんて言い出すようになったの。」
その時からだった。
男みたいに話すようになったのは、少しでも弟のかわりになれるように
少しでもお母さんを救ってあげたかった。
でも男になるなんて、弟になりきるなんてできるはずなんてなかった。
小さな頃の小さな浅はかな考え....
「男になれるように頑張ったよ、でも逆効果でね。それがますますお母さんを追い込んだ」
どうして今こんな話をしているんだろう?
思い出の場所が、あまりにも変わりすぎていたからだろうか。
それとも?
「だから私は、家を出たの。お母さんをこれ以上苦しめたくなかった....私の存在がお母さんにとって苦しいなら、もう消えるしかないじゃな...... 」
一瞬だった。
それは一瞬の出来事.....
私は、おそ松の腕のなかにいた。