第19章 金木犀の香りはデートの予感?
行きたかった場所....
そういって連れてきたのは、さびれ具合の酷い専門店街だった。
閉まったシャッター、ショーウィンドーの中は空っぽ
楽しくもない場所、きっとそう
それはわかっていた。
「なぁ?ここなーんもないよ?お兄ちゃんと楽しいとこ行こ?」
エスカレーターに運ばれながら、もっともなことを言う。
「....例えば?」
「ラブホ」
短めにそう問えば、帰ってくるのはこれまた最悪な答えだ。
「....死ぬかここで?」
なんて言ってたら、上の階につく。
さびれ具合は残念だけど、なかなかに眺めのいい場所にあるベンチに腰かける。
なつかしい....
「....ここね、昔よく来てたんだ」
遠い日を懐かしむように口にする。
幸せだったその時を、懐かしんで惜しむように
「家族.... と」
そう口にした時、黙ったまま私の横に座る。
こういうときの優しさが、おそ松を嫌いになれない原因だろう。
「....あの頃は、とっても幸せだった」
ポツリポツリと溢す一言が、自分の胸を締め付けていく。
「弟もね、一緒だったの....とっても可愛い弟、それで地下にあったスーパーで手を繋いでお菓子を選ぶの」
溢れて止まらない想い出が、鮮明に色濃く頭の中で再生される。
「その後、この階まで来てね、フードコートがあったんだけど.... そこでお昼を食べるの....弟は、自分の嫌いな食べ物を私のお皿に入れてきて、私はお母さんに内緒でそれを食べるの」
もう取り戻すことのできない、とっても幸せな記憶....