第16章 紅葉は紅く染まる
『殺してしまえば、僕のものだ』
頭の中で声がする
『なにを躊躇っている?』
紅い悪魔が微笑む
僕の身の内にいる悪魔が
『誰にも盗られたくないんだろ?誰にも触られたくないんだろ?』
これは悪魔の声じゃなくて、僕自身の心の声だ。薬で作り出された幻で幻ではない。
『やっとじゃないか、ほらそのまま絞めろよ』
僕は....
ゆっくりと力をいれる、それでもなおニコりと君は微笑んでいた。
涙で潤んだ瞳を必死に取り繕って君は笑う
僕の大好きな君の強い瞳が、光を急速に失うのがわかる。
手を伝ってどくどく脈打つ頸動脈の鼓動が鈍くなっていく
カタカタと震えだす手
そんな僕の震える手に添えられたのは、君の温かな手だ
ーーチョロ松くんは綺麗だよ
ーー何度だって言うから
ーーありがとうは私の方なんだよ
頭に駆けるのは君の言葉
僕は君の言葉に救われたんだ
『欲しい』
僕もだ
『この女を自分のものにしたい』
同じだ
『誰にも渡したくない』
そうだね
『だから』
でも
『殺したい』
殺したくない
『鈴音が好きだから』
鈴音ちゃんが好きだから
喉の渇きが、頭痛がすうっと治まる。
そうだ
僕はただ鈴音ちゃんが、好きで好きで大好きで
どうしようもなく辛かった
僕の中にやって来た悪魔
でもその悪魔はもともと僕の中にいた悪魔だ
たとえこの中に悪魔が巣くい始めたとしても、君への想いがかわることなんてない
だから....