第16章 紅葉は紅く染まる
口の中で指が暴れる。
舌と指の腹が擦れあえば、しゃべることも唾液を飲むことも叶わない。
つうっと一筋、唾液が唇の端からこぼれ出す。
「いいね....その呆けた顔、ゾクゾクするよ」
その一言とともに、指が喉の奥まで差し込まれる。えずきそうになるのと同時に、じわりと視界が霞む。
「涙目っていうのも、そそられるね....」
口から指を抜かれれば、つうっと唾液が私とそいつの指に橋を架ける。
「はぁっ.... こ、殺して....や.... る.... 」
ギッと睨み付ければ、うっすらと笑う声がくくっと聞こえた。
「涙目で睨んだって、君になにができる?」
あざ笑う声、動かない身体、頬を流れて冷たくなる唾液が悔しさを連れてくる。
ふいっと顔を背ければ、ぐいっと前を向かされる。
痛いほど頬をつかまれて、爪が食い込んでいくのがわかる。
「あぁ、顔に傷がついちゃうね」
すうっとこめられる力が弱くなる。
冷たい手だ、本当冷たい手。
「血がにじんでるね」
そっと顔をちかづけられる、冷たい手で目を覆われているせいで顔が見えない。
ゆっくり頬を舌で撫でられるのを、ビクッと身体が跳ねて拒否をする。
「美味しい、もっと.... 」
耳元でそう聞こえれば、やられることは一つしかない。
そしてこいつ自身も吸血鬼であることがうかがえた。
しかしおかしいのだ。
この屋敷内で吸血鬼は松坊っちゃん達と松代さんしか居ないはずだからだ。