第15章 祭り囃子と夏の終わりー後編ー
「グレープ、好きなの?」
私はじっと一松くんを見つめた。
「なに....?ダメなの?」
「う、ううん!私もグレープが好きだからさ」
私がそう言ったら、目を細めてどことなく嬉しそうな顔をする一松くん。
紫の浴衣、猫の足跡が大きく一つ。
いつもと違う格好のせいかな?
柔らかい表情が、とてもかっこよくみえて。
「....なら食べる?」
そう言って、すたすたとかき氷の屋台へ歩いていってしまう一松くん。
私は靡く紫色の裾を掴んだ。
「....なに?」
くるりと後ろを向くと同時になる涼やかな音色、じとっとした目があう。
「....いや、無意識」
ぱっと袖を離す。
前から思ってたけど、なんでか一松くんに離れられると怖くてたまらなくなる。
何が怖いのかよくわかんないんだけど。
そんなことを考えていたら、いつのまに買ったのか、ずいっと目の前に出される紫色のかき氷。
「あ、ありがとう.... ございます」
かき氷を受け取って一口口に運ぶ。
甘くて、美味しい、懐かしい味がする。
口の中で、すっと溶けて消えていくかき氷。
「美味しい.... 」
私の一言にまた目を細めて、とってもとっても優しい顔をする一松くん。
なんでこんなに切なくなるの?
なんでこんなに....
嬉しいはずなのに....
「!!?!何泣いてんの!?」
えっ?顔をあげる。
本当だ。なんで泣いてんだろ?わからない。
「....嫌だった?くずのゴミのオレと一緒にいてかき氷食うの」
私は静かに首を横にふる。