第14章 祭り囃子と夏の終わりー前編ー
するっと僕の腕から抜け出る鈴音ちゃん。
甘い残り香がふわりと薫る。
変に感情的になってしまうのは、残暑の蒸し暑さに頭をやられたんだろうか?
それとも元々そんなことを思っていたのかな。
「じゃあ、行ってくる!」
走る後ろ姿をぼうっと見つめる。
行かないでと言えたなら、きっとこんなに切なくならないのにね。
物思いに耽っていたら、視界がいきなり緑に染まる。
「これ!」
さっき走っていったはずの鈴音ちゃんが、ずいっと袋を差し出していた。
「えっ、これ?何?」
「わたあめ!しかもね!これさ、青リンゴ味なんだよ!すごくない!?めずらしくない!?」
額の汗がここまで急いで走ってきてくれたことを物語る。
「待ってるだけじゃあれかなって思ったから、これ食べててね?」
僕、子どもじゃないんだけどなんて思いながら緑色の袋を受けとる。
「ありがとう、鈴音ちゃん」
にこっとして笑う。
こんなちょっとしたことで、僕はもう舞い上がるほど嬉しいんだ。
君の行動がこんなにも僕を、一喜一憂させるんだよ。
「あっ、ちょっと残しといてね?私も味が気になる!」
その言葉に、ふはっと笑ってしまう僕。
「僕のために買ってきてくれたんじゃないの?」
ちょっと意地悪なことを言えば、そうだけどでも気になるなんて....
本当に、欲張りだね。
そんなとこが可愛いけど....
「それ食べて、ちゃんとここで待っててね?」
だから、僕は子どもじゃないのに....