第14章 祭り囃子と夏の終わりー前編ー
パステルルグリーンの生地にピンクと水色の花が散りばめられた浴衣が、目の前で揺れている。
紛れもなく僕の選んだ浴衣。
「鈴音ちゃん!」
大きな声で鈴音ちゃんの名前を呼ぶ。
周りに他の兄弟達の姿はなくて、内心ラッキーだなんて思っていた。
「チョロ松くん!」
僕をみてにこりと笑う鈴音ちゃん。
「鈴音ちゃん!よかった、見つかって!」
僕が選んだ浴衣を着てくれたんだと思うと心臓が高鳴る。
「僕の選んだ浴衣、着てくれたんだね?」
淡い一瞬の期待....
でも....
「うん、よく似合ってる.... けど.... ん?」
僕のなかで違和感がする。
ああっそっか、そういうことか。
僕はふうっと心のなかでため息をつく。
そうだよね、鈴音ちゃんがそんなことするわけない。
「なんか.... 違う?.... でも、ふふっ似合ってる」
僕がこんなことを考えてることなんて、きっと思ってないんだろうななんて思いながら。
「チョロ松くん皆は??」
「はぐれちゃったんだ、本当に困った兄弟だよ」
やれやれと思いながら、同時に失笑する。
人の欲望には際限がないっていうけど、きっとそれは僕ら人でないものも同じなんだ。
「えっ!?チョロ松くんはしっかりしてるから大丈夫だけど、他の四人は放置してて平気なの!?」
慌てる君を見つめながら、僕は頑張って笑顔をつくる。
「大丈夫だと思うけど、心配であることにかわりはないね」
ぶっちゃけ、他の兄弟のことは今はどうでもいいんだけど....
そうもいってられないよね。