第11章 彼女に福寿草を捧ぐ....
「おそ松兄さんはね、僕と彼女を守るために自分を偽ったんだ.... 」
風がさあっと舞い上がれば、黄色い花が小さく揺れる。
少し肌寒い青の世界で聴くには、悲しすぎる話だった。
「それで.... その人とは.... 」
十四松くんは首を横にふった。
「それっきりなんだ、トド松に記憶を消してもらったから.... でも」
ばっと立ち上がってくるくると回った後に、優しい優しい顔をして、十四松くんは笑った。
「彼女ね、そのあと幸せになったんだ。あのあと彼女が幸せに生きれるようにおそ松兄さんが色々してくれてたんだ!」
なんで....
「本当に、おそ松兄さんにはかなわないや」
なんで....
「泣いてるの?えっえっ?僕なにかした?!」
ぽたぽたでる涙が、黄色い花にかかる。
落ちる滴、まるで花が泣いてるみたいだ。
「泣かないで?」
長い袖が近づいてくれば、私の涙をそっとぬぐう。
「どうして.... 鈴音ちゃん泣いてるの?僕.... 彼女が幸せになって」
ーーとっても幸せーーー
屈託のない笑顔でそう言った十四松くんが、眩しかった。
音もなく流れる涙を何回も何回もふく十四松くん、なにも言えない私。
慰める言葉も、労る言葉も、なにも浮かんでこない。
なんと言葉の引き出しの狭いことだろう。
「泣かないで....僕まで....悲しく....」
大きく口を開けて笑う、強く優しい男の子はうっすらと目に涙を溜める。