第11章 彼女に福寿草を捧ぐ....
「....おそ松兄さん.... 」
ぽつりと兄さんの名前を呟く。
あんなおそ松兄さんは見たことがなかった。
本当におそ松兄さんが....?
僕はおそ松兄さんが優しいって知ってる。
そしておそ松兄さんが故意に人を傷つけるようなヴァンパイアじゃないことも。
目の前の現実を今更否定しながら、重い体を引きずる。
行かなきゃ....
僕は、おそ松兄さんの部屋に向かった。
足取りは重い、こんなの初めてだ....
全身に力が入らない
足には枷を
腕には重りをつけられてるみたい....
瞬間移動さえできない体を必死に引きずって、赤くて大きい扉のまえにたどり着く。
その場にへたりこむ。
体が思うように動かない。
「おそ松.... お前はなんでそうなんだ.... 」
カラ松兄さんの声だ。
静かで何かを諭すような声が、赤い扉から聞こえる。
僕はその場でゆっくりと座り込む。
今入っちゃダメとそう思ったから。
僕は二人の会話にそっと耳を傾ける。
「何故だ、何故ちゃんと話さない?」
カラ松兄さんの声だけが響く。
「ちゃんと話せば十四松だって.... 」
「言えるわけないだろ.... 」
絞り出すようなおそ松兄さんの声が、小さく響いた。