第11章 彼女に福寿草を捧ぐ....
「ありがとうございました。」
建物から出てきた彼女は、叔父さんにそう言って頭を下げた。
叔父さんは無言のままその場を去っていく。
彼女はそれをぼうっと見送った後に、少し空を眺めていた。
そんな彼女に僕は近づく。
「十四松くん....?」
僕を見つけるやいなや、彼女は小さな手のひらから金色のコインを落とした。
僕はそれをそっと拾って、彼女の手に戻す。
「.... ずっと、いたの....?」
僕の冷たい手が、彼女にずっとここにいたことをさとらせる。
「.... みて.... たよね.... 」
無言でコクンと頷けば、グレーの瞳が大きく揺れる。
「そ、そっか.... 」
にこりと彼女は笑った。
とてもとても悲しそうに、にこりと僕に笑った。
「さようなら.... 十四松くん.... 」
小さな言霊が耳を駆け抜けると同時に、彼女は僕の前を横切った。
小さな後ろ姿が、いつもよりもっと小さく見えた。
僕は急いで彼女に駆け寄ると、その手をひいた。
「十四松くん.... 離して.... 」
彼女は小さく僕に言った。
「いやだ.... 」
僕がそう言えば、彼女は叫んだ。
「離して!離して!十四松くん!お願い!私を!離して!」
涙声が耳を通り抜ける。
「いやだ.... いやだ!いやだ!いやだ!」
彼女に負けない声で、僕は叫んだ。
「ど.... して.... 」
顔を片手でおさえて、消えそうな声で彼女はつぶやく。
「.... 好きだから」
掴んだ腕をそのまま引き寄せて、彼女を抱き締める。
かたかたと震える手が、寒さと彼女の愛しさを僕の心に伝えた....
雪が降る寒い夜だった....