第11章 彼女に福寿草を捧ぐ....
「思い出すって....?」
聴いちゃいけないことだったのかも知れない。
でも聴かずにはいれなかった。
揺れる黄色い花に、そっと触れた。
「....昔、ずっと昔」
ぽつり、ぽつりと言葉が紡がれる。
「とっても.... 好きな女の子がいたんだ」
正直意外だった。
子どもっぽい十四松くんに、そんな一面があったことに....
でも何よりも
その話をしはじめる十四松くんの声があまりにも....
優しくて....
「抱き締めるだけで、手が震えてしまうほど僕はその子が好きだったんだ」
顔を埋めたまま
えへへっと小さく笑う、十四松くん
「でも.... 」
さあっと風が通る。
風が冷たいせいか、十四松くんの温度が背中に重くのし掛かる。
「僕が、その子を好きなったからその子は不幸になっちゃった.... 」
目を大きく見開いて、空を仰ぐ。
雲ひとつない真っ青な空を....
人を好くことが人を不幸にするの?
ずしりと重くのし掛かる言葉が、心の暗いなかに落ちていく。
何も言えない
言葉が見つからない
「その子は.... ね、人間の女の子だったんだ」
湖の水面が揺らいで、私と十四松くんを揺らした。