第11章 彼女に福寿草を捧ぐ....
清んだ声だった....
男の人の声
優しく響いているテノールが、私の足を進ませる。
夢を見ているんじゃないかと錯覚するほどに身体中がふあふあとする。
羽根でも生えたように軽くなる足取りが向かう先は、空と草原しかない世界で、風に乗って響く声の持ち主の所だ。
ブーツを土で汚しながら、小高い丘を越えてその場所に向かった。
丘の向こうに見える景色に息を飲んだ。
透明な湖が空をうつして青く青く清んでいた。
そのまわりに咲くのは小さな黄色い花。
さぁっと風が吹くなかで、揺れる花は何故か切なげに見えた。
そんな中で見慣れない黄色いパーカーに身を包んだ男の子が、歌っていた....
~~
もしも君が迷ったときは僕の名を呼んで
君が悲しいときは飛んでくるから
月が道を照らすように
僕は君の月になろう
もしも僕が迷ったときは僕の名を呼んで
君の声が僕を導くから
月が道を照らすように
君は僕の月なんだ
もしも君が僕をいらなくなってしまったら
君は僕を忘れて?
月が満ち欠けるように
僕は闇に帰るから